傾聴のテクニックの一つにオウム返しというのがあります。
社会人になったときに、新人研修等で習うことがあるかもしれません。
「これは大事だよー」という講師の言葉とはうらはらに、とかく不自然になりがちなオウム返し。
うまく機能させるためのポイントについて書いてみたいと思います。
オウム返しの意味とは?
簡単にいえば、相手の言ったことを繰り返す傾聴のテクニックのことです。
例えば
A:「今日は寒かったよー」
B:「今日は寒かったんですね」
みたいな。
言葉を真似ることで相手との一体感が高まり相手は話しやすくなる!!!!
はずなのですが…。
実はけっこう難しいのです。
オウム返しが悪く作用すると
機械的でイラッとする
まず単純に繰り返し続けると、不自然さが募りイラッとされます。
良かれと思ってやってるので悪気はないのですが、話が聴いてもらってと思うどころかマイナス印象を与えてしまいます。
会話が冗長になる
同じことを2回繰り返されるので、なんとなく会話のリズムが悪くなり冗長な印象を与えてしまいます。
「全然、話がすすまん!」
みたいな。
立ち返ろう!オウム返しの意図
では、オウム返しが機能するためにどうすればよいか考えてみましょう。そもそもオウム返しは、ミラーリング(相手をまねること)することで、信頼関係を構築しやすくするコミュニケーション技法です。つまり「言葉を受け取っている!」というサインであると同時に、あいづちのように会話にリズムを作っていくことを意図しているわけです。この点を忘れてはいけません。
ところが、ただ繰り返すだけになると、信頼どころかロボットと喋っているかのような機械的な印象を与えてしまう可能性があります。ひょっとすると「オウム」という言葉が悪いのかもしれません。
つまり、本当のオウム返しはリズミカルな会話につながらないと意味がないのです。
簡単な例でみる自然なオウム返し
例1:よくある感じ(距離感を感じるパターン)
冒頭の例で考えてみます。
A:「今日は寒かったよー」
B:「今日は寒かったんですね」
これだと、なんだか少し不自然です。二人がどんな関係性かわかりませんが「ですね」自体に距離を感じます。丁寧な先生に無理やり聞いてもらっているような印象もうけます。
例2:きれいなオウム返し(そのままミラーリング)
A:「今日は寒かったよー」
B:「今日は寒かったよー」
とそのまま繰り返してみます。
これだとどうでしょう?
Aは「この人なにしてんだ?」って思うかも笑。何を会話しているのかよくわからなくなりそうです。
例3:より自然な感じ
次はこれだとどうでしょう?
A:「今日は寒かったよー」
B:「あらー、さむかったかー」
これだと、だいぶ自然です。このあとにA「そーなのよー」と続きそうです。
なんで自然に感じるのか?
当たり前に見えることを書いてきましたが、けっこう重要な点です。この3例の違いはなにか?
相手との関係性
一つは、相手との関係性です。
話している相手との関係性で、調子を合わせる必要があります。
ミラーリングといっているのに、そこがずれていると機械的なコピーになってしまいます。
例1も先生と生徒だと成り立つかもしれませんが、Aさんが想像しているBさんとの距離感を誤ると少しシラけてしまうわけです。Aさんの「よー」がどのような関係性の前提に成り立っているかが重要です。
応答しているというサイン
実践的にオウム返しを使うためには、受け取り方も重要です。
例3の「あらー」に注目です。この言葉には、Aの言葉に反応して寒そうだった様子への共感が見えます。
ひょっとすると、Aさんはブルブル震えているのかもしれません。
そして、その気持ちへの共鳴として、「さむかったかー」とオウム返しをしています。この言葉が、「繰り返し」ではなく感じているサインとしても機能している点がポイントです。
ベイトソンいわく、ただの言葉なんてない
重要なことは「言葉の意味」単体で考えないということです。コミュニケーションは、言葉も含めたメタ要素が合わさって成り立ちます。
アメリカの文化人類学者ベイトソンは、コミュニケーションに関してこんなことを言っています。
要約しつつ内容を簡単に伝えるとこういうことです。
“コミュニケーションを行う際、少なくとも二種類の情報が同時に発せられる。
一つは、レポート:言葉の意味に関する情報
もう一つは、コマンド:相手に対する気持ちや関係性に関する情報
である。そして、これらの情報は単独で存在することはない。”
参考:やさしいベイトソン―コミュニケーション理論を学ぼう! 野村直樹 金剛出版
例えるならば
これはどういうことなのか、有名な8時だヨ!全員集合での「志村、後ろ!」を例に解説してみましょう。
舞台上で危険が迫る志村けんに対して、子どもたちは「志村、後ろ!」と伝えます。
その時、志村けんには2種類の情報が同時に伝わっています。
一つは、「志村!後ろを見ろ」というレポート。
そして、もう一つは「後ろからなにか怖いものが近づいてるから気づいて!急いで!危ない!」というコマンド。
言っている言葉は「志村、後ろ!」だけなのですが、それが意味するところは単に「後ろ見て」だけではないわけです。
逆に「志村、後ろを見ろ」だけを単体で伝えることも不可能です。紙で見せようが、ライトを点滅させようが、単体では伝わりません。つまり、コミュニケーションにおいて言葉の意味(レポート)だけが単独で存在することはありえないのです。
ここについて、ベイトソンは娘とのやりとりの中で、このように言っています。
ともかく、ナンセンスだ。人が「言葉」でしゃべってる−ただ単語を並べてしゃべってる-なんて考えるのは全然ナンセンスだ。身振りと言葉、なんて分けるのが、だいたいナンセンスだ。「ただの言葉」なんてものはないんだから。公文とか文法とか、そういうのも全部ナンセンス。「ただの言葉」というものがあるという前提の上に、はじめて成り立つ概念だ-
精神の生態学(上)/Gベイトソン 思索社(p44)
いいたかったことは
少し難解な感じの話になってきてますが、平たくいってしまうと、こういうことです。
「会話の中で、相手の意図を無視して機械的にスキルをつかっても逆効果」
ここが、オウム返しが機械的でいやらしさを感じさせてしまう所以なのだと私は考えます。
日常でのオウム返しを機能させるための6つの心得
このサイトは、みなさんが自然に聞き上手になることを目指しますので、なるべく自然な状態でオウム返しできる方法を考えていきます。
1,基本的に、日常会話の中で言葉を繰り返す必要はあまりない、と心得るべし
先程の説明でもありましたが、相手のことが考慮されていない言葉は、いくら繰り返したところで不自然です。基本はそんなに使おうと思わず「ここぞというときにつかってみよー」くらいの意識のほうが、より生きてくるように思います。
2,わからないときの間つなぎ手段として使わない
「あなたの発言を受け取っています」というサインのはずのオウム返しで、わかっていないことを隠したまま繰り返されると、相手は非常に寂しい気分になります。これが、聞き返す疑問形としての繰り返しならOKなのですが、わかっていない時には、不用意に繰り返さず疑問をちゃんと伝えましょう。
※ところが、自分が「わかっていない」ということに気づくのもまた難しいことではあります。この辺は別の記事に書いてみようと思います。
3,ほんとに気になった言葉だけを繰り返す
とはいえ、ワンポイントで言うのであれば、有効な使い方ももちろんできます。コツは、重要そうなキーワードは繰り返してみることです。「さっきから聞いてると、なんかこの言葉がよくでてくるな」と思った言葉だけを言ってみましょう。
4,言い換えて返す
全く同じことを返すと不自然になるのであれば、少しだけ言い換えてみると、あなたが受け取っているという意思表示にもなります。
5,要約して返す
上のいい換えにも近いですが、話を聞いた上で、要約して返してあげるのも有効です。
「いま言ったのって、こういうことですか?」
6,とはいえ、失敗してでも繰り返し続ける
ここまで言っておいてなんですが、物事はやってみた人しか勘所がつかめません。
すべての道は一歩からなのです。
日常で自然に使うためには、まずは何回も失敗することも自然になっていくためのステップとしてはおすすめです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
簡単なようで、難しいオウム返し。
今回は、あえてオウム返しのミラーリング的な側面についてはあまり語りませんでした。というのも、日常の聞き上手というシーンの中で、ミラーリング自体がどこまで有効なのか私自身もつかめてないからです。
たしかに、相手の動きや言葉をミラーリングすることで、無意識レベルで連帯感が生まれやすくなることについては同意するのですが、そこを意識した時点で場の空気自体が固まってしまうのも事実としてあるのかなと思うのです。その辺については、もう少し掘り下げてから記事にしてみることにします。