以前、エリクソン催眠をされている方から言われた忘れられない言葉があります。
それは「忘れることを忘れない」という言葉です。
一見、矛盾している言葉なのですが、なんだかいいですよね。このような矛盾しているメッセージを効果的に使うことを治療的ダブルバインドというらしいのですが、理論的なことはさておいたとしても、当時の私にはぐさりと刺さったわけです。そのとき話していたテーマは嫌な記憶についてだったのですが「そう言われてみると、いつまでも持っててもしかたないなあ」などと、しみじみと思った記憶があります。
人から言われて傷ついた言葉であったりとか、感じた怒りなどはいつまでも覚えていたりすることってありますよね。概して、そういう記憶に限って「忘れてはいけない(自分で咀嚼できるようにならなくては、みたいな?)」という力も働いてしまうような気もします。それが相まって、逆に強力に残り続けてしまうこともあるのでしょう。
そんな記憶ですが、思いの外あやふやなものであるという話もあるようです。以前ヒプノセラピーをされている方から聞いた話によると、厳密に言えば記憶というのは思い出すたびに書き換わってしまうものなのだとか。つまり、思い出したときの文脈や状況によって内容やニュアンスが少し変わってしまうものであると。よほどのものでもない限り、記憶というのはそれくらい曖昧なものとして考えておいてもいいのかもしれません。
もちろん人生いろんなことがあります。忘れてはいけないこともありますし、無理に忘れることがよいこととも思いません。ですが、心身が不健全になるほど記憶に苦しさを感じたときに「忘れてもいい」という選択肢を用意できるだけで、少しだけでも心の拘束が緩めることができるように思います。
それが、「忘れることを忘れない」という言葉から私が感じたことでもありました。
ちなみに、日常生活の場面では妻からよく「前にも話したよ」とか「その話、前もしてくれたよ」とか言われてしまいます。そのことを思い出そうとしても思い出せず「あれ?そうだっけ?」となったりすることがしばしばあります(笑)。
人の記憶とは不思議なものですね。