アーカイブ:石田奈央子さんインタビュー

アーカイブでは越智孝之が行ってきた過去のインタビュー集を掲載していきます。

リンクは、2015年4月にパーソナルコーチの石田奈央子さんのインタビューをしたものです。

プロコーチと同時に趣味で落語家としても活動をする石田奈央子さん(通称:なおさん)。視覚の障碍を抱えながらも、全力で人と関わり存在を肯定しながら表現していくなおさん。「人のダメさに寛容になれる社会を目指したい」と語るその願いについて、インタビューしてみました。

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コーチングとの出会い

“相談できる人がいたらいいなと思って探したのが最初でした”

–では、まずはコーチングとの出会いからお伺いしていきたいと思います。どういう出会いだったんですか?
なお:それは、だいぶ前のことなんです。私、子供のころからずっと弱視だったんですけど、二十歳過ぎにガーンと視力が下がったんですね。それを家の人には言えないというか、心配させちゃいけないので。

–では、秘密にされていたんですか?
なお:家の人も気づいてはいたんだと思いますけど、あんまり言えない感じだったんですね。で、そういうのを相談できる人がいたらいいなと思って探したのが最初でしたね。お医者も変わったりして、言うところがなかったんですよ。その後、ソーシャルワーカーっていう悩み相談とかもしてくれて色んなことを考えてくれる人が病院にいるらしいっていうことを知って、すごく憧れていました。だけど、そういう大学には行ってなかったので、無理だなーと思ってて。その頃にテレビでコーチングの特集っていうのをたまたま見たんですね。「えー、こういうのあるんだー」と思って。しかも電話でできるから、在宅で働けるっていう良さもあるなと思ってました。

–その時に、勉強をはじめたんですか?
なお:いえ、習い始めたのは、その数年後ですね。盲導犬関係のメーリングリストで視覚障碍者向けのコーチング勉強会っていうのがあるよ、来ませんか?みたいなのが流れてきたんです。それで行ったのが最初の学びでしたね。形式としては、毎週1回夜、電話会議システムに集まって1年間勉強するんです。そこで2年ぐらい勉強したんですけど、何かよく分かんなかったんですよ。

–わかんなかったというのは、どういうことですか?
なお:認定資格の試験とかあったんですけど、全然受かんなかったんです。その理由がわからなくて。でも、なんかが足りないらしいと。それで、その勉強会の主催者の方が学んだCTIの基礎コースに学びに行ったんです。ちょうど3.11の地震の後くらいのことでした。

コーチングを学び、受けてみての変化

“やっと自分で自分を赦してあげられたかな、みたいな。”

–コーチングを学び始めて、ご自身もコーチングを受けて、どんな変化がありましたか?
なお:視覚障碍者向けのコーチに行った時に、私はその時は、自分のことをだめな人だと思ってたから、「私はマイナス30点からのスタートなんです」とか言ってたんです。でも、色んな事を話させてもらっていく中で、いままで自分がすごく頑張ってきたんだなっていうのが分かってきたんですね。「頑張ってやらなきゃいけない」とか、「人の3倍努力しなきゃいけない」とか思いながら。
で、吐き出しきってみたら「十分頑張ってるし、もういっぱいやってるから、もういいよね」みたいな感覚になってきました。やっと自分で自分を赦してあげられたかな、みたいな。

–すごく力な抜けたような感じがありますね。
なお:そうなんです。それまでは、正しいものは正しいよね、間違っているものは間違っているよね、みたいな判断をするような人でした。だけど正しくなくて間違ってないみたいな、そういうのってあるよね。白か黒かだけじゃない、判断できないものってあるよね、みたいな事を考えるようになりましたね。

対人関係でいっても、今までは「何で、できないのそれ?」みたいに強く言ってしまうタイプだったんです。自分はわりと努力する人だったので、人に厳しかったんです。だけど、「まぁそういうこともあるよね」とか正しくないし間違ってないみたいな、ゆるい感じっていうか、赦してる感じが持てるようになったのかな。そうすると、すごいダメダメな人でも可愛らしい存在にみれるようになりました(笑)。

石田奈央子はどんなコーチ?

“人のダサさとかを自分が率先して見せていくことで、それでもいいんだって気付いてもらう”

–ご自身の事をどういうコーチだと思いますか?
なお:いま、「赦しのエンターテイナー」って名乗ってるんですよ。

–それはどういう意味なんですか?
なお:落語家としての活動にも通じるんですけど、なんか笑っちゃう、みたいな。あるある、みたいな。そんなに真剣に考えなくてもいいよねっていう場を創っていきたいんです。人が人として頑張っているからこそ、まぁまぁまぁ、そんな真剣に考えないでみたいな。

–なおさんにとってのエンターテイナーっていうのは、どういう人のことなんですか?
なお:「全部分かっている人」っていう感じかもしれません。「全部分かっている人」っていうのは、「やろうと思うんだけどやれない」とか、「できるようになりたいんだけできない」とか「前に出たいんだけど出られない」とか「変えたいんだけど変えられない」とかの葛藤に対して、変えることだけが答えじゃなくて、進むことだけが答えじゃなくて、でも絶対前に進んだほうがいいよねっていうのを分かってくれてる人のことですね。それを、面白く見せることで、「進まなくてもいいかもしれないし進んでみてもいいかもしれないよな」っていう揺さぶりを起こすみたいな。

–なるほど!その立ち位置がエンターテイナーなんですね。
なお:そうそう。そこを面白く見せるっていうことです。落語もそうだけど、自分がそれを軽やかに口にぷっと出すことで、今の自分も結構いいかもしれないし変わるために1歩出してみるのも結構いいかもしれないっていう気付きをゆるーく起こさせる。時には、絞めるところは締めますけどね。

–落語家の立川談志さんが「落語とは、業の肯定だ」みたいなことを言われてるのを思い出しました。
なお:そうです。人のダサさとかを自分が率先して見せていくことで、それでもいいんだって気付いてもらうみたいな。別にかっこいいエンターテイナーである必要はなくて、むしろダメダメさとかを率先して見せていくことで、葛藤があることをクライアントさんにOKを出してもらう感じですね。「あるよね、そういうの。だからこそ人ですよね」みたいな。そういうコーチングをしていきたいと思っています。

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どういう人にコーチングを届けたい?

“「絶対こうなんで、この仕事しかできません」とか思っている人はたくさんいるんだと思うんです。それ本当?みたいな、そういうのをやりたいんですよ”

–では、どういう人に向けてコーチングを提供していきたいですか?
なお:その答えになっているかどうかは分からないですけど、私、前職辞めたきっかけっていうのが、見えない人は、うちの会社では「この仕事しかやってもらうことがないです」って言われて入ったんですよ。15年ぐらい仕事をしてきて、ある時ふと、それって本当?って思ったんですよ。激しく本当かもしれないけど、本当じゃないかもしれないので、1回確かめてみよう、辞めてみようみたいな。バカだーみたいな(笑)

–続けようと思えば続けられたのに?
なお:そうです。だから会社としては大衝撃で、「何で辞めちゃうの?」ってみんなから言われました。いや、でも本当じゃないのかもしれないので確かめますみたいな(笑)。気づいてもいなくて、とらわれちゃってる人って絶対いるんですよね。特に障碍者の人とか多いんだけど。自分は障碍者なんで高望みしませんとか、絶対こうなんで、こうしかなれませんみたいな、この仕事しかできないとか思っている人はたくさんいるんだと思うんです。それ本当?みたいな、ファイナルアンサー?みたいな、そういうのをやりたいんですよ。

–障碍者の方って特に感じやすいと思うんですけど、やっぱり健常者の人が作った枠内で収められることを規定されているような部分があって。
なお:そうなんですよ。彼ら自身も作ってるんですよ、その枠作りにものすごく加担しちゃってるんですよ。いやでも、あなたの魂そうじゃないでしょ、みたいな。いや別にそう思ってる人は止めないけど、そうじゃないかもしれない。あそこに変な人がいて、そうじゃないって言ってるし。2、3人ちょっと立ち上がってくれるといいかな、みたいな。

それこそずっと同じ仕事をやっていると自分はこの仕事しかできないとか言ってる人いっぱいいるし、俺はずっと何とかだから、それしかできないからさーとか言ってる人いっぱいいるし、それこそ学校出てないからとか、なんちゃらかんちゃらだからって。それって全部本当ですか?と聞いてみたくなります。本当かもしれないんですよ。ものすごく本当かもしれない。だけど、確かめてみる価値くらいはあるんじゃないの?みたいな。そういう人に向けてコーチングを提供していきたい思いがあります。

–そう感じている人達が、なおさんと接することで、どんな風になっていくと思いますか?
なお:人のダメさに寛容になれるというか、多分みんな世界で自分が一番正しいと思っているから、だからお前はこうなんだみたいな話になるけど、その人が主張するのにもそれなりの理由があって、まぁそうだよねーみたいな、別に妥協するとかじゃないんだけど、みんながみんなに対して寛容になれたら、そんな言い争いとかにならない。お前より俺のほうが正しいみたいな話にならないから、そういう人が増えると、もうちょっとみんな生きやすいんじゃないかなと思って。多分、正しさ大会みたいになると、どっかの空爆みたいになっちゃいますからね(笑)。

盲導犬オードリーとの関係から考えるコーチング

“色んな人を平等にみる一環として、種類の違う生き物同士が知恵を出し合う、そういう感覚はすごい学ばせてもらったかな”

–なおさんを語る上で、一緒にいる盲導犬のオードリーとの関係もきいてみたいのですが、いかがですか?
なお:ノンバーバルのコミュニケーションもそうだけど、色んな気付きをくれますよね。種類の違う生き物なんだけど、あまり境界線がない感じの見方になってきました。だから色んな人を平等にみる一環として、種類の違う生き物同士が知恵を出し合う、そういう感覚はすごい学ばせてもらったかなって。学んだことって、出せば出すだけ響くじゃないんだけど、こっちが伝えていけば伝えていく分だけ響き返って来るみたいな。ありがとうねって言えば、ものすごいしっぽ振るし。態度でももちろんそうなんですけど。それって、生き物同士のコミュニケーションなんだと思いますね。個体として、別々のものではあるんだけど、お互いの内面とか、中とか魂とかを行ったり来たりしてるような感覚。境界線がなくなってスッと中に入ったり、ある時は1個と1個になったり、私がぐっと入り込んだり向こうがぐっと入り込んできたりっていう、そういう感覚かな。

–生物同士のプリミティブな感覚を共有できているんですね。
なお:そうそう。私って犬と歩いていてもベラベラしゃべってるんですよ。「どうする?とか良かったねー」とか言って。他の人から見たら、「1人で歩いてる人がベラベラしゃべってるんだけど」っていうふうにも見られそうですけど(笑)。そういう感覚がすごい大事だなと思っていて。でも会話が成立してるんです。しっぽ振ってたりとか。内容ではなくて、エネルギーで感じてるんです。

–その感覚を持っているコーチと持ってないコーチだと、無意識レベルでの安心感とか安らぐ感じとか、変わってくると思うんですよね。ただエンターテイメントですっていう人とは全然深さの階層が違う。そこがなおさんの強みなんだと思いました。
なお:ありがとうございます。土台がちゃんとあったうえでアホできるみたいな(笑)。そういう感じです(笑)。なので、色んな方とコーチングさせてもらえたらなと思っております。今日はありがとうございました。

–ありがとうございました!!

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