読書レビュー2:気づきのセラピー

–ゲシュタルトの祈り–
私は私のことをする。あなたはあなたのことをする。
私はあなたの期待にそうために、この世に生まれてきているのではない。
あなたも私の期待にそうために、この世に生きているのではない。
あなたはあなた、私は私である。
もし、たまたま私たちが出会うことがあれば、それはすばらしい。
もし出会うことがなくても、それは仕方ないことだ。
(フリッツ・パールズ)

今日紹介するのは、「いまここ」に気づきを促すゲシュタルト・セラピーの解説本です。
日本でのゲシュタルト・セラピーの第一人者百武正嗣さんの超絶わかりやすい入門書です。
理論とその実践について、細かく記載があり感謝感激の本です。

今回は、焦点の”気づき”そのものよりの話というよりも、少し違った視点から眺めてみたいと思います。

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境界線と陰陽とエサレン研究所

本書の中で登場する「境界線」or「コンタクト・バウンダリ(接触境界)」という言葉は、おち対話デザイン事務所の重要テーマであります。この考え方の前提となる大きなところは東洋思想の陰陽からきていると言えるのではないかと思います。

そもそも、私が行っているコーチング(の多く)を始めとした 人間性心理学 の臨床的な技術は、分析的原因主義的観点や量的な観点の心理学(精神分析、行動主義)から離れ「人の生きる目的、意義」を探求する中で、身体やこころの在り方を重視していた東洋的な思想が多く反映されたものになったということなのだと言われています。

その中で、重要な地点になったのがカリフォルニアにある エサレン研究所 という施設になります。研究所とはいいつつも、様々な人が自由に集まるコミュニティ施設だったようです。エサレン研究所は、ヒッピー文化とも相まって、アメリカ文化に反抗した若者たちのメッカとなり、ここで数多くの心理療法や心理学が花開くこととなります。1960年代の話です。

 エサレンに出入りしていた人たち
・ フリッツ・パールズ (ゲシュタルト・セラピーの創始者)
・ アブラハム・マズロー (人間性心理学の提唱者)
・ カール・ロジャーズ (臨床心理学者/クライアント中心療法の創始者)
・ ウィリアム・シュッツ (エンカウンター)
・ アイダ・ロルフ (ストラクシュアル・インテグレーション=ロルフィングの創始者)
・ アレクサンダー・ローエン (バイオエナジェティクスの創始者)
・ シャーロット・セルヴァー (センサリー・アウェアネスの創始者)
・ フレデリック・M.アレクサンダー (アレクサンダー・テクニークの創始者)
・ モーシェ・フェルデンクライス (フェルデンクライス・メソッド創始者)
・ グレゴリー・ベイトソン (人類学・社会学・言語学・サイバネティックスなどの研究者)
・ ロロ・メイ (精神科医)
・ ヘンリー・ミラー (小説家)
・ ロン・クルツ (ハコミセラピーの創始者)
・ トマス・レナード (コーチユニバーシティの創立者 ここからコーチ21(現コーチA)、CTIなどへ続く)

本書のゲシュタルト療法が、開花したのもこの研究所でのことでした。(成立自体は、パールズがエサレンにくる前とのこと。)

ゲシュタルトは全体性

そもそもゲシュタルトという言葉は、ゲシュタルト心理学での「全体性」を意味します。
解説自体は、本文から引用させていただきます。

“ゲシュタルト心理学は、人間が世界をどのように近くするのかを研究する心理学ですが、その原理は、そのような個別化、細分化する還元主義的な考え方とは反対の立場をとりました。すなわち、人間は世界を「ゲシュタルト(全体性、意味のある物)」として知覚する、という視点です。
 私たちがあなたを見る時、「あなた」(=全体)を認識(知覚)します。あなたの「ここの部分」を認識するわけではありません。あなたの着ている洋服、足の長さ、学歴、表情、仕草、骨格、血液型、家系などをいくら個別に分析しても、それはあなたの一部分です。ゲシュタルトとは「全体性」ですから、「ここの要素」をいくら足しても、ゲシュタルト=あなた(全体)にはならない、つまり「全体は、その部分部分の総和よりも偉大である」という視点をもちます。”(p61)

ここで、有名なルビンの壺とともに図と地の話がでてきます。

この絵を見ると、人の顔に見えたり、壺に見えたり。顔に見えているとき(図)は、他のモノは背景となり(地)、逆に壺に見えているとき(図)は、他のモノは背景となる(地)という知覚の特徴があります。背景となってしまったものを、人間は認識できないのです。

ここまでが原理だとすると、どちらを図とするか選択するのは、その人自身の選択であるとパールズは言います。つまり、世界を認識することをあなた自身が選択していることになります。(p65)

つまりは、起こっている問題の本質は過去の状況ではなく、現在の今この瞬間の中にすべて現れているが、人はそれを自分自身の選択の中で選んでいる。その図の部分になった隠れた部分に気づき、統合していくことで全体性を取り戻すことができる。というのが、ゲシュタルト・セラピーの考え方なのです。
※人間性心理学全般の特性ですが、前提として「人はそもそも健全なものである」という人間を肯定的に捉えているバックボーンがあります。ここは重要なのですが、また別の機会で。

私は私、あなたはあなた

統合すると一口にいっても、状態は様々です。

そもそも、統合とは、複数の要素の足し算ではない融合した状態のことなのですが、大体の場合はその前段階として、癒着しているほうが多いようにも思います。不健全なグレーな状況というか、なんというか。わかりやすい例でいえば、母子分離があります。親が子どものすべてをしてあげたくなってしまう。もしくは、手を出しすぎている。

まずは、そこを切り離す(分離する)ことが必要になります。ゲシュタルトの・セラピーでも、セッションの終わりに、クライアント自身に状況に対して、「私は私、あなたはあなた」と言いながら手で線を引いてもらうことをします。

そうして、本来自分自身が請け負うべき領域、人から入られすぎている領域(そしてそれは自分で選んでいる)に線をひき、個人の健全な境界線へと戻すのです。そして、自分の軸で、相手と適切に関わりながら生きていく。冒頭の引用につながっていきます。ここにゲシュタルトの思いが詰まっているように感じております。

私自身も、まだまだ分離ができていない事柄が多く、本書を読みながら、地になっている自分の見ていない領域を観察するようにしようと、改めて思った次第です。ここは、前回の 三毒 にも絡む部分でもあります。

読書レビュー1:反応しない練習

パールズ自体の原書は、膨大な量になりますが、本書は本当に読みやすい実践的な内容になっていますので、ご興味あればぜひご欄ください。
最後にパールズの言葉を引用して終わります。

自覚それ自体が、治療的でありうると私は信じている。
(フリッツ・パールズ)

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